生命の音・民族楽器/設計者から
世界民族楽器館ティンガ・ティンガ・ハウス館長 鈴木 正明

世界民族楽器館ティンガ・ティンガ・ハウス館長 鈴木 正明

 近代文明社会を充実させた 20世紀、「良い商品」とは=消費者の手間をより大幅に省き、プロの結果をより簡単に享受できる物=でした。
 道具がハイテクになり、求められる機能が高いため、自分では修理すら出来ず、ましてや自作することなど考えも及びません。
 今後もこの傾向が続くとは思いますが、結果のみを享受することに重点が置かれすぎると、本来大事にされていた「プロセス=手間」がおろそかにされてしまいます。
 プロセスを他人に任せ、結果が不満足であれば責任を転嫁する。
 最もこれを重視しなければいけない育児・教育までもがその傾向にあります。

 21世紀に入り、この行き過ぎに警鐘を鳴らす雰囲気も出てきました。
 スローライフの提唱もその一つと思われます。
 不便さを知っている時代から、不便さを知らない時代になった今、「便利さと引き替えに失った物」に気付くことも難しくなっています。

 最近「ものづくり」の重要性に焦点が当てられるようになり、例えば飲料水のペットボトル等廃材を利用し楽器などを制作するワークショップが多く開かれています。
 作っている時は皆さん楽しんでいますが、残念ながら、出来上がった物のその後はほとんどゴミ箱というのが現実です。
  見た目に格好良く機能性が優れ、販売されているものと同じレベルの完成度がなければ、自作の物を長く使用することはないようです。

 料理を作って食べない人はいません。
 料理を作り食べ「おいしい・まずい」を感じ、次に生かします。
 作っても使わなければ、その意味は半減してしまいます。
 「ものづくり」の大きな目的は、素材を加工し新たな物を作り出し、それを使用することで論理的に思考し、全体の流れをつかむこと、ひいては想像力を培うための訓練と考えます。

 「プロセス=手間」の大事さが言われる中「つくる」だけでなく「つかう」も考慮し、「楽器なら作った後の楽しみは他の物より多いのでは」、こんな思いで当館が取り扱う300種の民族楽器の中から、楽しい楽器たちを、自分の手で作り上げられるようキット化致しました。
 見た目と違う意外な音を出す楽器、自分ではとても作れないと思っていた楽器、チョットやってみたいなと思う楽器を、自分で作り楽しめるようにしたものです。

 木をくり貫かなければ出来ないと思っていた太鼓の胴を、樽を組む要領で平らな板を張り合わせ、丸い胴を作り上げます。
 通常入手の難しい本物の皮を使うため音色も本格的です。
 材料からは完成品が想像できない面白さと、出来上がったときの完成感、自分で作った楽器での演奏の楽しさは格別です。
 物があふれている現代、「自分流」を実現できるものでもあります。

 発売以来多くの方に支持していただけ、物作りの楽しさを再発見する機会を多少なりとも増やしたのではないかと自負しております。
 このキットを作られた方が、それを様々な場所で使い楽しみ、また別の素材で独自の楽器作りに発展したとすれば、設計者としては無上の喜びです。

 

 


 







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